狂い咲き、犬哭の夜 | 憐れみの檻
【閲覧注意】 本作は史実を下敷きにした歴史フィクションです。物語の展開上、人物の密やかな関係性や官能的な心理描写、ならびに過酷な運命を想起させる表現が含まれます。18歳未満の方、刺激의 強い表現を好まれない方は、閲覧をお控えください。 【史実 ARCHIVE】 年号: 1687年(貞享4年)頃から本格化 人物: 徳川綱吉(Tokugawa Tsunayoshi)、柳沢吉保(Yanagisawa Yoshiyasu)、隆光(Ryuko) 元禄時代、徳川五代将軍綱吉によって制定された「生類憐れみの令」は、捨て子や老人への保護も含む広範な道徳律であったが、特に犬への愛護が極端に執行されたことで知られる。民衆は犬を「お犬様」と呼び、誤って傷つけただけで厳罰に処される恐怖に怯えた。この過剰な慈愛の裏で、人々の愛憎や欲望は密やかに、しかし激しく渦巻いていた。 [出典: Wikipedia] [出典: Wikipedia] 元禄の世、江戸は爛熟の極みにあった。しかし、その華やかさの底には、将軍綱吉による「生類憐れみの令」という見えざる鎖が横たわっていた。犬を殺めれば人すらも死罪となる狂気の法。人々は息を潜め、お犬様が通れば泥に額を擦り付ける。そんな歪んだ秩序の檻の中で、決して結ばれてはならぬ二人の男女がいた。幕府の犬目付(いぬめつけ)である男と、没落した商家の美しき未亡人。彼らの逢瀬は、死と背中合わせの蜜の味であった。 畳の井草が肌に食い込む感覚と、互いの鼓動が重なり合う音だけが、世界の全てであった。志乃の肌は、行灯の光を吸い込んで妖しく輝いている。久蔵の手が彼女の背筋を辿るたび、彼女は小さな、しかし鋭い呼気を漏らした。それは快楽の声であると同時に、怯えの声でもあった。 「……怖いのです、久蔵さま」 事切れた後の静寂の中、志乃が呟いた。彼女の瞳は、快楽の余韻で潤みながらも、見えざる処刑台を見つめている。 「もし、私たちがこうしていることが露見すれば……」 「誰も知りやしない。この部屋の障子...